『水車小屋のネネ』感想──30年をともに生きる物語

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Amazonより

『水車小屋のネネ』は、事情を抱えた姉妹・理佐と律が、家を出て2人で生きていくところから始まる物語です。

たどり着いた先で出会うのは、水車小屋で働く人々と、人の言葉を話すヨウムの「ネネ」。そこで働きながら、姉妹はさまざまな人と関わり、助けられ、時には誰かを支えながら長い年月を生きていきます。

派手な事件が起きる小説ではない。けれど、読み終えたあとには、不思議と長い人生をともに歩いたような感覚が残る作品でした。


最初は、理佐と律の姉妹だけで生活を始める展開に驚きました。姉の理佐はまだ高校を卒業したばかりの18歳だったから。わたしは比較的ぬくぬくと育ってきた自覚があるので、あんなふうに自分たちだけで生きていく決断をする2人を純粋に「すごい」と思ったのです。

もちろん、それは前向きに選び取ったというより、必要に迫られた結果。それでも、まだ若い2人が生活を作っていく姿には強さがありました。


この物語で特に印象に残ったのは、2人の周囲にいる大人たちの存在です。

誰かが劇的に救ってくれるわけではない。でも、働く場所を与えてくれたり、気にかけてくれたり、ごはんを食べさせてくれたりする。そのさりげない優しさが、読んでいて何度も心に沁みました。

それは、津村記久子さんの淡々とした筆致によって描かれているからこそ、押し付けがましく見えない。本当に優しい人というのは、案外ああいうふうに自然に誰かを支えるのかもしれない気がします。

作中で律が「自分は周りの人々に恵まれている」と感じる場面があるが、まさにその通りだと感じました。


そして、この小説の魅力は、30年という長い年月を描いているところにもあります。

大きな事件が起き続けるわけではない。それでも、2人が働き、食べ、生きていく日々を追いかけるうちに、いつの間にかこちらも長い時間を共に過ごした気持ちになります。

読み終えたあとには、「物語を読んだ」というより、「誰かの人生をそばで見守っていた」ような感覚が残りました。

あとがきには、「本書が誰かの良い友人になることを願っています」と書かれています。まさに、その言葉通りの小説だったとわたしは思います。

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