一軒家を買いたい。それはわたしが昔から夢見ていたことだ。でも、今すぐにその夢が叶うことはない。
わたしたち夫婦が今置かれている状況では、一軒家を買うという選択を取ることができないでいる。
そもそもわたしが一軒家に強く憧れる理由はいくつかある。
1つ目は、地に足がついているから。
これは概念的な意味ではなく、物理的にということだ。一軒家を買うということは、土地を買うということ。この区画は自分たちのものだという明確な括りがある。
9年前に結婚してから、わたしたちはずっと賃貸アパートに住んできた。その部屋は1階のこともあれば2階のこともあったし、1階の玄関を開けると階段があって2階に居住スペースがあるタイプの部屋に住んだこともあった。
そのどれらにも共通しているのが、「自分の土地がない」ということだ。ただ部屋という空間だけを借りている状況。
わたしはずっと「地面がほしい」と思ってきた。自分たちが自由に使える「地面」がないのは気持ちの面で落ち着かなく、腰を据えてここに暮らすという感覚を持てないでいた。
自分たちの「地面」があるということは、時に便利でもある。例えば、洗車したいと思ったとき。賃貸物件では駐車場も共用スペースであるため、そこでジャバジャバと車を洗うことはできない。迷惑行為になってしまう。
自分たちの地面がほしい。それは一見滑稽な望みだが、わたしにとっては切実なものだ。文字通り地に足のついた生活をしたい。そんな望みをずっと抱えてきた。
2つ目は、愛着が湧くから。
今まで住んできた賃貸の部屋は、あくまで借り物であった。実際、わたしたちは部屋を一時的に借りているだけで、夫の仕事で転勤が決まれば引越しをする。
気軽に住処を移れるのはある意味でメリットなのかもしれないが、わたしにとっては少しさみしいことに感じる。住んでいる家にはいつも「どうせ一時的な借り物だしな」という他人行儀な感覚を抱えてきた。
今だって、住んでいる家をより快適にしたいと思いつつ本腰が入れられないのは、この家もいつか引っ越して出ていくからだ。手間をかけて住みやすい部屋を作っても、引越しをしたらまたイチからやり直し。そう考えると、部屋作りにもどこかむなしさを感じて手間をかけられないでいる。
3つ目は、暮らしが安定するから。
今まで挙げた理由に共通することになるのだが、家を買うということは暮らしを安定させることに直結すると思っている。
土地を買って、家を建てて、そこで暮らす。それは、ひとつの決意だ。その場所で生きていく、という。1カ所に根を張って、一生ここで暮らしていくんだという強くて大きな縛りが、一軒家を買うという行為なんだと思う。
一軒家に住みたい、というだけの夢ならば、実はわたしたちも今すぐ叶えられる。賃貸の一軒家を選べばいいのだ。でもそうではなく、わたしが一軒家の「購入」にこだわる理由はここにある。
賃貸ならば、たとえ一軒家でも借り物であることに変わりはない。そこに強く根ざすという行為にはならない。
一戸建てという形態の家を購入する。それによって、わたしは「ここで生きていくんだ」という決意をしたいと思っている。そうすれば、先にあげた家に対する愛着もより湧くだろうし、日々の暮らしもより大切にしたいという気持ちになると考えている。
ここまで書いてきたが、「そんなに一軒家に住みたいならば今すぐ買えばいいじゃないか」というツッコミが入りそうだ。わたしたち夫婦がそれをできない大きな理由がある。
それは、夫の仕事だ。
夫の職場では、若いうちは数年に一度転勤がある。実際、9年前に結婚してから広島→兵庫→大阪とわたしたちは移り住んできた。現在住んでいる大阪も、期限こそ未定なものの永住する可能性は割と低い。
次の転勤を最後に(たぶん)転勤は終わりそうだという見通しが立っているものの、つまりそれまでは仮住まいの生活を余儀なくされるということだ。
こればかりはしょうがない。そんなわけで、わたしたちはもうしばらく賃貸暮らしをしていくことが決まっている。
しかし、どうしても「早く一軒家に住みたい」という気持ちが溢れてしまうときがある。そんなとき、わたしは物件サイトを漁る。
先日も、「もし広島に帰ることができるとしたら、どんな物件があるだろう」と売りに出されている中古物件の情報を検索していた。
すると、これは良いと思う家を見つけてしまった。
まず立地。夫の職場から程近く、通勤にも便利な場所だ。そして間取り。一軒家に住むなら自分の作業スペースやたくさんの本の収納がほしいと考えているわたしの希望を叶えてくれる、理想的な間取りの家だった。
物件サイトを漁るという趣味は、こういうときつらさを倍増させてしまう。なぜなら、いくら良い家があっても実際にその家の購入は検討すらできない状況だからだ。
今回だって、今広島の家を買うことはほぼ100%実現不可能なことだ。それを、うっかり情報を見てしまったばっかりに「この家に住めたらどんなに幸せだろう」という苦しみを生み出してしまった。
なんともやっかいな趣味であることは自覚している。自分から苦しくなりに行っていると言われれば返す言葉もない。
だが1つ言い訳をさせてもらうと、今のうちからいろいろな家の情報に触れておくことは将来家を買うときの参考になると思うのだ。
「この家、いいな」「住みたいな」と思う家の条件というのを、今すぐには家を買えない今のうちから集めておく。そうすれば、いざ家を買える! という段階になったときにスムーズに物事が運ぶはずだ。
実際、今のわたしには今まで家について考えてきた情報が蓄積している。どんな家に住みたい? と問われれば、いくつかの譲れない条件をすぐに出すことができる。
苦しみを伴うが、一応は実益を兼ねた趣味でもあるのだ。
一軒家を買うという夢は、今の自分には少し遠いものだ。今すぐに叶うことはまずない。
でも、それが叶ういつかは必ずやってくる。そのときを心待ちにしながら、今日も物件サイトを巡る。
いつか家を買うことができたら、そのときはどんな素敵な空間を作ろうか。地に足をつけた生活を、今日も夢見ている。

