こんにちは、やまね(@aoironote16)です。
伊坂幸太郎さんの新作『AX』を読了したので感想を。
あらすじはこんな感じ。
「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。
一人息子の克巳もあきれるほどだ。
兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。
引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。
出典:KADOKAWA
これがもう、あいかわらず最高な読みごたえ!
本書の魅力について語ってみます。
「殺し屋シリーズ」について
『AX』は伊坂幸太郎さんが書く「殺し屋シリーズ」第3作目。
さまざまな殺し屋が登場し物語を繰り広げる人気シリーズです。
ただ、シリーズとは言っても登場人物は毎回違いますけどね。
なんせ殺し屋なので…
殺し屋シリーズ1作目『グラスホッパー』は映画化もしましたよね。
妻を殺され復讐に動く鈴木を始め、自殺専門の殺し屋「鯨」、ナイフ使いの「蝉」などが登場します。
私はこの作品で伊坂さんのファンになり、何度も読み返しました。
2作目『マリアビートル』の舞台は東北新幹線。
車内で繰り広げられる殺し屋たちの疾走感あふれる物語にドキドキしながら一気読みしたのを覚えています。
どちらの作品もスピード感あふれる展開が魅力だと思うのですが、今作『AX』は一味違います。
今までの殺し屋たちとは一味違う主人公
本作の主人公「兜」も、もちろん殺し屋です。
その腕はピカイチで業界では名の知れた存在みたいですね。
しかし、彼には裏(表?)の顔が。
それは「恐妻家」であるということ。
何人もの人を殺しておきながら妻に頭が上がらない、というなんとも変わった特性の持ち主なのです。
新鮮だったのが、殺し屋である兜が家庭を持っているということ。
今までのシリーズでは殺し屋たちのプライベートな部分はあまり描かれなかったのですが、兜は殺し屋とは別に「文房具会社の営業」という仕事もこなしています。
もちろん家族は彼が殺し屋であることを知らず。
妻には頭が上がらない、息子にはその恐妻家ぶりにあきれられるというなかなか人間味のある殺し屋、兜。
まさか殺し屋である登場人物に親近感を覚えるなんて思ってもみませんでした…
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「愛」あふれるストーリー
本作は5篇からなる連作短編集となっています。
最初の3篇はどこかほのぼのとした雰囲気さえただよっています。
もちろん兜は殺しの仕事もこなしているのですが、一方ではいつも家族のことを考えているんですよね。
庭にできたスズメバチの巣の駆除に奮闘したり、ボルダリングジムで恐妻家仲間と意気投合したり。
しかし、物語は途中から急展開を見せます。
このままほのぼの路線で行くと思って油断していた私は思わず「えっ?」と声を発してしまったほど。
さすが伊坂さん、今作も読者を楽しませる仕掛けをたっくさん仕込んでくれていましたよ。
『AX』は、今までの殺し屋シリーズにない「愛」がテーマだと思っています。
兜の家族に対する愛が物語の随所にみられて、ラスト近くでは思わず涙がこぼれそうでした。
図書館で読んでいたのでぐっと我慢しましたが。
「親父は人生をやり直せるとしたら、おふくろとは結婚しないでしょ」
恐妻家である兜ですが、息子からのこんな問いかけにこう答えます。
「やり直しても、まったく同じであってほしいよ」
(中略)
「そしてまたお前が生まれてくる。そうじゃなかったら、つらいな」
恐妻家でいつも妻にびくびくしている兜のことが最初は情けないと思っていた私。
でもこの言葉にはやられました。
なんてかっこいい父なのか、と。
殺しの仕事から足を洗おうとするときも、家族を守ることを第一に考えていた兜。
かっこいいです。
まとめ
『AX』は殺し屋シリーズ3作目にして新境地。
伊坂幸太郎ファンはもちろん、初めて伊坂作品を読む方にもおすすめしたい!
ただし、今までの殺し屋シリーズに出てきた人物もちらりと登場するので、『グラスホッパー』『マリアビートル』を読んでからのほうがより楽しめますよ。
それでは!